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食べ物の貯留機能の減退によって、摂食量はかなり減少し、栄養低下が現われる。
そこで、一回の食事量を少なくし、食事回数を増やし、よくかんで食べるようにする。
さらに、食べ物が急激に空腸のなかに入ることによって、精神不安、冷汗、顔面がまっ青になったり、ダンピング症状を見ることもある。
また腸液が食胃全摘,食道十二指腸間有茎空腸移植(間置)道へ逆流しておこる逆流性食道炎も重大である。
逆流によるはげしい胸やけや痛みは食欲や食事量を減少させ、栄養障害の原因となる。
 これらの症状をできるだけ少なくしようと、いろいろな工夫が試みられている。
これらのなかでもっともよい成績をあげているのは、食道と十二指腸の間に空腸を移植する間置法である。
これは、一九四一年、O氏が発表したもので、一五センチメートルの空腸を食道と十二指腸の間に移植(間置)するものである。
これによって、食べ物は、食道から移植空腸、さらに十二指腸へと通過する。
食べ物が十二指腸を通過することによって、腸液や胆汁の分泌をうながし、また食べ物と消化液の混和が生理的順序で行われるなど、ほかの術式にくらべてすぐれていると考えられている。
しかし、この術式にもまったく欠点がないわけではない。
吻合箇所の多いこと、がんが再発したとき処置に困ることなどである。
いろいろ問題があるにしろ、この術式はいまなお世界中の外科医によって支持されている。
 胃全摘の予後をみると、手術後五年生存率は三五・三パーセントである。
ふつうの幽門側胃切除の六三・九パーセントにくらべていちじるしく悪い。
胃全摘の多くはこれを行わなければならないほど進行した胃がんに対する手術法であるからである。
さてここで、手術はどんなふうに行われるか紹介しよう。
手術前日の処置として、消化管のなかの清掃のため、夕食の後、固形食を摂ることが禁止される。
とくに、午後九時以後は食べ物のみならず飲み物も禁止される。
さらに、クエン酸マグネシウム液や、緩下剤を飲み、グリセリン洗腸をうけて、消化管のなかを清掃する。
手術を受ける場所の剃毛をし、きれいにする。
術後の細菌感染を予防するためである。
精神安定剤・睡眠剤を処方してもらい、早目に就眠する。
 手術当日の朝、起床後、歯をみがき、洗顔する。
その後、グリセリン洗腸をうけて、消化管のなかを空にする。
前夜九時以後、飲食していないので点滴注射をうける。
 胃管を鼻孔を通して胃に入れる。
胃内にたまっている空気、胃液を除くためである。
 手術衣に着替えて、麻酔の前投薬をうける。
病室から手術室に運搬車で運ばれる。
病室の看護婦から、手術室の看護婦に患者の状態が申し送られる。
 ついで麻酔を行う。
手術室で待機していた麻酔医は、病室看護婦から手術室看護婦に申し送られた患者の状態について、手術室看護婦から報告を受ける。
術前の検査記録に目を通し、麻酔器具を点検し、麻酔の準備にかかる。
患者を手術台に移し、輸液経路を確保するため点滴注射がはしまる。
ほとんどの場合、全身麻酔が施される。
麻酔医は常に患者の状態をみ、最良のコンディションで手術が行われるよう、いろいろなモニターを取り付ける。
麻酔がかかった後、尿道カテーテルを挿入し留置する。
尿量と輸液量によって、からだの水分バランスが過不足なく保たれていることを知るためである。
 そして手術を迎える。
手術を担当するチームは、多くの場合、三〜四人の外科医と手術器械を手わたす一人の看護婦とからなり、帽子をかぶり、マスクをし、手を消毒して、ガウンをまとい、ゴム手袋をつける。
このほか、もう一人の看護婦がつく。
手術が遅滞なく、円滑に行われるように、麻酔薬、点滴注射液、出血量、使用ガーゼ数、手術器械の点検から、照明の調節にいたるまで行う。
手術されるところが消毒され、手術されるところ以外は消毒した布でおおわれる。
ここで手術チームの外科医が患者を囲む。
術者が一礼して手術がはじまる。
この一礼は患者に対して、そして、その手術に協力する人たちに対してなされるものである。
厳粛な一瞬である。
 手術というものは一人の外科医がメスを握っただけで行われるものではない。
手術はオーケストラにたとえられる。
メスをもった執刀者という指揮者のもとに、協力者という楽団員がそれぞれの楽器で、それぞれの音を出し、一つにまとまって、はじめて一つの音楽として演奏されるのと同じである。
一人の勝手も許されない。
音楽であれば、不協和音が一つ聞こえたですむが、手術はすべて患者の生命に直結しているのである。
協力者全員がただ手術の成功だけを願って、立ちはたらき、手術を支えているのである。
 執刀者は腹部の皮膚を切開し、手術がはしまる。
開腹すると、がんの状態をみ、術前の診断に間違いのないことを確認する。
がんの及んでいない健康なところで切り取るよう目をこらし、手指に神経を集中して臓器に触れ、手術を進めていく。
このとき、さらに病理学者が加わり、がんの状態を調べることもある。
協力者たちは、病理学のみならず、解剖学、生理学、生化学、細菌学、内科学など医学の全知識を注ぎ、全神経を集中して、手術が円滑に進行するように協力する。
手術されている部分がよくわかるように、胃周囲の臓器を押えたり、引いたり、止血したり、清掃したり、注意を払う。
術者と協力者、あるいは麻酔医、看護婦の気持が一つにならなければ、確実な、見落しのない手術はできないのである。
 昔、いわゆる名人芸ともいうべき手術を行うことで名を成した外科医もあったが、いまはそういう時代ではない。
白心の合った協力者の協力を得て、操作の一つひとつを順序よく、確実な手技で手術を行っていくのである。
 リンパの流れ、血液の流れから、がん細胞の転移方向を推定し、リンパ節を取り除き、自動縫合器を用いて胃を切り取る。
必要ならば周囲の臓器も切り取る。
がん手術の原則は、できるだけ一括して切り取ることである。
とくに胃がんの手術で重要なことは、大網を全部切り取ること、胃に近いリンパ節と、少し離れたリンパ節では、総肝動脈に沿うリンパ節と、左胃動脈に沿うリンパ節を取り除くことである。
 そして最後に、残った胃と十二指腸あるいは空腸とをつなぐことになる。
患者が寝ているとき、もっとも低い位置になる腹腔に排液管をおいて、腹腔のなかにたまった古い出血や体液の排出をはかる。
腹壁を縫い終ったならば、再び全員で一礼して手術を終る。
創はガーゼでおおわれる。
 麻酔医は患者を麻酔から覚す。
血圧、脈拍、呼吸、体温、尿量などをチエックする。
とくに術直後は麻酔半覚醒による呼吸の状態に注意する。
吸入器の使用や、体位を変えることによって、無気肺など肺合併症を予防する。
胃管で胃のなかにたまっている胃液や、出血のあるなしを調べる。
血液をけじめ体液の循環の状態を管理し、鎮痛剤を用いて痛みを和らげる。
手術室から回復室に移し、回復状況をみることになる。
感染予防のため抗生物質が用いられる。
術後一週前後から、栄養士、調理土の協力で流動食の摂食がはじまり、次第に固形食に移っていく。
 順調な経過をとれば、術後二〜三週間で退院ということになる。
 一方、切り取られた胃、リンパ節はホルマリン液で固定される。

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